I-10.ポートフォリオの理論(1)
株式学習ゲームの経過を確認した後は、先週の宿題に関連した補足説明です。効率的市場仮説の反証として紹介した行動ファイナンスの一部をもう少し説明します。
これから3回にわたりポートフォリオ理論を話して行きます。行動ファイナンスが学生には分かりやすい結論を導き出しているのに対して、ポートフォリオ理論、特にCAPMの結論は一般人の直感には馴染みにくいと考えています。それだけに、ここで一旦現実の世界に近い行動ファイナンスを採り上げ、「さあ、理論の世界に頭を切り替えなさい」と学生にスイッチの切り替え所を明示したほうが、これからの話の理解がし易いのではないかと思った次第です。
ここから理論の説明にはいって行きます。「現実と理論とは違って当たり前。理論の非現実性は気になるかもしれないが、複雑な現実の裏にあって見えにくい真の関係を理論は教えてくれる」と繰り返し話します。
さて、ポートフォリオ理論の大胆な点は、意思決定の要素を「期待リターン」と「リスク」の2つに絞ってしまうことです。要素が2つですので、横軸と縦軸に当てはめれば平面のグラフに関係を示すことができます。後期に教えるマルチファクター・モデルと比べて、格段にビジュアルです。ここではまず、横軸に配置する「リスク」の説明からはいります。
リスクの定義を「標準偏差」と再確認したところで、「投資家のリスク選好」の話からポートフォリオ理論のスタートです。
経済学科の学生にはお馴染みのはずの「効用無差別曲線」ですが、株式投資の話として登場してくることに、最初は違和感を覚えるようです。行動ファイナンスでは投資家のリスク選好をより複雑に捉えますが、ポートフォリオ理論ではシンプルにリスクを嫌う「リスク回避型」の投資家の意思決定を論じます。そうした投資家は、リスクの小さな投資と比較して、リスクの大きな投資にはより大きなリターンが期待できないと納得できない、すなわち効用無差別とはならないと考えます。
メインの「ポートフォリオの期待リターンとリスク」ですが、大学教育ですので「そのメカニズムをきちっと教える」べきと考えます。そこでどうしても避けられないのが、標準偏差、分散、相関係数、共分散という統計概念です。これらの概念を抜きでポートフォリオ理論を語るのは、タンパク質やミネラルなどの栄養素を無視して料理の作り方を教えるようなものです。
文系の学生達ですので、数式が出てくると目が死んだようになる者も多くいます。特に「共分散」の概念は難物です。私は「万有引力の法則」を引き合いに出し、「相関係数は物体間の距離(の近さ)」、「共分散は引力」に該当すると説明することにしています。
最後に、来週の本題の講義に向けての予習として、2つの銘柄の基本統計量の計算と、それらを組み合わせたポートフォリオの統計量のプロットを宿題として提示します。
https://kinyu-literacy.com/wp-content/uploads/2018/08/Equity_Investment_Theory_10.pdf