I-12.資本資産評価モデル(CAPM)

前回の講義では、株式の組み合わせ比率に応じてポートフォリオの期待リターンとリスクがどう変化するのかを論じました。「ポートフォリオ理論」の核心に当たる部分です。図や式を見せるだけでなく、自分で手を動かして確認させるために、この演習の時間を設けました。株式学習ゲームでは、私が12銘柄を提示し、学生がそれぞれ5銘柄を選択しています。この5銘柄のポートフォリオの効率的フロンティアを描かせます。

前期に教える「ポートフォリオ理論」の締めくくりは「資本資産評価モデル」です。業界人は「キャップエム」と呼びます。「すべての投資家が、証券の期待リターン、標準偏差および共分散の大きさについてまったく同じ認識を持っている」という、現実にはあり得ない仮説から展開される理論ですが、「市場ポートフォリオがリターン対リスク比で最も効率的」という驚くべき結論を導き出します。
今日のETFなどのパッシブ運用の隆盛は、この理論から生まれたビッグバンのようなものです。この理論を知っている個人投資家はほとんどいないのでないかと思いますが、大学で株式投資を学ぶ学生には必修の理論です。

「ベータ」も「資本資産評価モデル」の重要な産物の一つです。個別の株式が市場全体と連動する傾向を持つことは、株式投資を経験した人なら誰でも気付くことですが、「何故、そうなるのか?」を理論的に説明できる投資家はほとんどいません。実は「資本資産評価モデル」の「ベータ」がその答えを教えてくれるのです。
機関投資家の資産運用では「ベータ」は当たり前に認識される概念です。市況関連株、ディフェンシブ株などの用語も、実はその裏に「ベータ」が絡んでいます。
「ベータ」のコントロールは、ポートフォリオ運用の重要な部分です。学生には、演習を通じてその一端を紹介します。

「ポートフォリオ」は、複数の証券を選んだ結果としてできた単なる複合体ではありません。証券を意図的に組み合わせることによって、その性格をコントロールできるのです。そして、そのコントロールの第一の目的が「リスクの制御」です。
市場に連動する以外の株式の動きをその株式に固有の動きと捉えれば、銘柄間の相関係数は理論的には「ゼロ」と想定することができます。そこから導き出されるのは「保有する銘柄数を増やせば増やすほど、銘柄固有の動きは打ち消し合って、リスクを小さくする」という結論です。他の証券投資と比較してリスクの大きい株式投資では「銘柄の分散」は欠かせません。
そうしたリスク・コントロールの技術はETFなどの運用に繋がっています。この講義の最後のパーツは「市場ポートフォリオへの近似」技術の紹介です。

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