I-8.期待リターンとリスクの推定

「株式学習ゲーム」において、学生がそれぞれ5銘柄を選択し、購入してから約1か月が経過しました。第8回目の講義の冒頭では、この1か月の市場全体の株価の推移を説明し、各自の1か月のリターンと市場の平均との比較を行います。市場平均を上回った学生は4人だけでした。次いで、それぞれが選んだ銘柄の分布、各銘柄の過去1か月間のリターンを確認します。市場平均を上回った銘柄は12銘柄中6銘柄でした。最後は、そのうちの1銘柄を例に、過去120か月(10年)の月次のリターンの推移を見ます。ある1か月のリターンを見ただけで、その後のリターンが予測できることなどあり得ないと実感させます。

第8回目の講義の本題は「株式の期待リターンとリスクの推定」です。これを論じるには、まず学生にリスクの概念、特に「ボラティリティ」について理解してもらう必要があります。アクティブ・ラーニングを意識し、学生にスマホから参照サイトにアクセスさせ、「株式投資のリスク」について自分で調べる時間を設けます。その後に、「機関投資家の目から見ると、ボラティリティ(リターンの標準偏差)で計測した日本の株式市場全体のリスクは約20%が平均」という具体的な調査例を挙げ、リスクをより具体的にイメージさせます。

株式のリスクをリターンの標準偏差で測定することを理解させた後は、統計学と関連付けた講義に移ります。リターンの度数分布を描くと、平均リターンが期待リターンに該当し、リターンの標準偏差がリスクに該当する関係がよく分かります。しかし、実際にこれを過去の実績リターンで描くとなると、そこには統計学でいう独立同一分布の仮定が必要になります。学生には頭の痛い議論ですが、株式の期待リターンとリスクを推定する「いろは」の「い」として教えます。実は、これがリスクの推定には意外に役に立つことも口頭で話します。

第8回目の講義の最後は、「リターンの計測期間と標準偏差」の話です。期待リターンと標準偏差の年率化の方法については以前の講義でも説明しています。ここでは「標準偏差を計算するリターンの計測期間が長くなると、損失確率の数字が低下する」話をします。株式投資は、短期決戦よりも、何年もの間長く続けるほうが損失確率が低くなると解説し、長期投資の意義の一つだと伝えます。

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